ーダ水の海で一つになる
(なんということだ!君の隣がこんなにも心地いいなんて)

ざぷんざぷんと波の寄せる音が聞こえる。その音が心なしかくぐもって聞こえるのは、 俺が水面下にいるせいだろう。もとい、正確には俺とだが。隣を見ればは目を閉じていて、 口の端からは二酸化炭素の気泡が少し漏れている。の髪が重力に逆らって水中に漂い、 上から降り注ぐ光の筋がちょうどに当たるので、スポットライトのようだとかまるで演劇のヒロインだとか 場違いなことを想像してしまった。繋いだ手がぎゅっと握り締められたのでいよいよ苦しいのだろうと冷静にを見つめた。 そもそも俺たちがこんなところにいるのはが「一緒に死んでくれる?」なんて馬鹿なこと言うからなのだが、 何を思ったか俺は「本望だな。」と考えられないような言葉を返した。それを聞いたがあまりにも嬉しそうに笑うもんだから、 ああ…あの返事は正解だったのだろうと妙に納得した。握られた手が痛い。でもそろそろ俺も限界のようだ。


「……という夢を見たわけだが、…」
「何それ?サソリってば心中願望でもあるの?」
とほざいては俺から一歩退いた。なんてむかつく野郎だ。 でも、それも悪くないよねと頬を染めて女の子らしい顔で笑ったので、何も言えずに黙り込んでしまった。 ただその後、「そんなに私のこと好きなわけ?」と余計な一言を放ったせいで、俺の怒りは再発して、 何とかしてこいつをぎゃふんと言わせようと早口に言った台詞がこれだ。
「ああ、好きだ。ものすごく好きだ。誰の目にも触れさせたくないくらい好きだ。」
するとみるみるうちにの顔は赤くなり、「あ…」とか「う…」しか言わなくなった。 どうやら俺の思惑どおりに事はすすんだようだ。

ふんわり女の表情をしたと思えば、いたずらっ子のように目をキラキラ光らせたり、
何かと忙しいの隣で、確かに俺は甘さの中に清涼感を感じていた。 ああこの清涼感がたまらなく好きなんだろうと、パチパチはじける心地よさが好きなんだろうと、 不思議な感情を与えてくれる彼女の存在をなくてはならないものと全身で感じているから、あんな夢を見てしまったのだろうか。 本来の自分とはかけ離れてしまった夢に思わず苦笑する。

でもまあ心中ってのも

悪くはない

(逃がしたくない失くしたくない永遠に)