溺死寸前そして失脚
君をこんなにも焦がれてやまない


どうしてだろう 10年ぶりに私の前に現れた彼は あの日と同じ姿形をしてあの日と同じ台詞を吐いた。

「俺は忘れ物を取りに来ただけだ、。」

彼の瞳は獲物を見つけたライオンのようにぎらぎらし 私を舐めるように見た。そして一歩また一歩と裸足の 足が砂漠を踏みしめる度に、私の心臓は大きく波打った。 絶望?恐怖?こんな感情私は知らない。 少し身じろげば唇が触れ合うほどに近づいたサソリは 白く綺麗な指で私の首を締め上げた。 「ぐっ……」 「なぁ、。10年前の話は覚えているか。」
覚えています。忘れるはずがないでしょう。 あんなにも焦がれたあなたの腕が私を振り払ったことを。 切なさの詰まった背中を私に向けたことを。 そして衝撃的な言葉を。

「お前を殺してやりたい。お前の口を塞いで。」

どうしてあのときちゃんと殺してくれなかったの 「…はっ……」 苦しい。でも馬鹿みたいにもがきたくない。 ねえ、今此処で口を塞いで殺して。あなたを目に焼き付けるから。 赤く染まったあなたの顔を。 きれいだよ、それいじょうなんてないと思う。愛しいよ。 「、どうしてあのときお前をちゃんと殺さなかったと思う? 答えは簡単だ。」 「お前に俺を忘れなくさせるためだ。今、こうやって俺に殺されることを 望ませるためだ。」 そしてサソリは私の口を自分の口で塞いだ。 ああ、この感情は歓喜だ!私の体は喜びで脈打っているんだ。 けれども、このまま力を増していくように思えた彼の指は、 私の首を舐めるようになぞり、そのまま力を失っていった。 それから私の頭を押さえつけ、さらに深く深く口内を侵食した。 (まるで愛しむように) 彼は本当は助けを求めている。両手をいっぱい伸ばして、 その手を掴んでくれと。 私も手を伸ばしている。その手を取りたくて。でも、届かないのだ。 伸ばした手はいつも空を切ってしまう。
ねえ、まだ足りないと言うの?まだ殺してくれないの?

残酷なあなたの愛は私には重い。


んでいたよ、

君が救われることを。

していたよ、

どこまでも優しい君の腕を。

  (だから早く解放してください。)