全てを掻き消す 温度

そして焼けつく程の

(それを人は衝動と呼ぶ)



私たちのこころは同じ温度でできている。だから一緒に生きていける。 これから先もたぶん死ぬまでずっと。

嘘吐きと蔑みたかった。でもそれはできなかった。実際その言葉に安堵したのは 事実だったのだ。俺がそっと手を伸ばすとはやわらかに微笑んでそのしなやかな 指で俺の汚れた手を壊れ物を触るかのようにするりと撫で、あたたかく包み込んだ。 本当は手を伸ばす気はなかったのに。俺はにそんなふうに触れて欲しかったの だろうか。自分がを求めてやまない事に今さらながら気づき、そのことがまだ 自分が人である証のような気がして自身に嫌悪感を抱いた。とうの昔に忘れた感情だ。 こんな燃えるような、それでいて心臓のある(あった)あたりが締めあげられる感情 なんて、俺にとってみれば名前をつける必要などないはずだ。(名前もつけられない程それはもっと 空想であたたかくて、狂気にまみれていたのかもしれない。)何も感じない何も感じない と自分に暗示をかけるように目を瞑りの手を振り払おうとしたが、そうすれば そうする程体温が滲みてこちら側に伝わってくるのが分かって、どうしてもできなかった。 自分が失っているものだからこそこんなにも焦がれてしまうのだろうか。後悔は していないはずなのに、何だってこんな感情に悩まされなければならないのか。

何度こいつの時をとめて二人で永遠になろうとしただろう。こんなにも頼りなさ気で 壊れそうな瞳をしているのに綺麗に澄んでいて、俺以外の奴に汚されるくらいなら、 いっそのこと、俺のこの手をの鮮血で濡らしてしまいたいくらい愛しいと 感じたことが何度となくあった。(そもそも俺が愛しいと感じることが間違っていると いうのに。)もそれを望んでいた。けれども、俺自身がそれをしなかった。 そばにいて微笑んでいてくれるだけで満たされるなんて思っていた。「サソリ」とその 透き通ったアルトが紡がれる瞬間、生かされていると思い知る日もあった。そんなの 思うことが馬鹿馬鹿しいと思うし、邪魔なだけだと言っていたのに、幸せを感じていたのは まぎれもなくこの俺だ!

けれどそもそも「死ぬ」という最期はにしか訪れないことであるし、「ずっと」なんて 俺たち二人の間には存在しないものなのだ。だってそれは俺自身がを傀儡にしないと 決めたことで決定的となってしまった未来なのだから。それでもその言葉に安心して しまうのは、が終わりのときを迎えるまでは俺のことを愛してくれるということを 表す唯一の表現だからなのだろう。そして、それによって幸せを感じているだなんて、 本当は俺は思っている以上に人間なのかもしれない。

溺れそうな程の 幸せの果てで

この想いが燃え尽きて

流星に変わり

幻想だと思い知るくせに