八月の太陽が頭の芯に突き刺さるように降り注いでいる。夏休みも折り返し地点だというのに体を溶かすような日差しは衰えを知ることはない。蝉の鳴き声は、口を開くことすら億劫になるくらい暑苦しい。よくもまあこんな環境の中休みもなくバレー漬けの日々を過ごしてきたなと自画自賛しながら、あまり多くない荷物をボストンバックに詰め込んでいく。
お盆休み。強豪と言われる白鳥沢学園バレー部に与えられる、ほんの三日間だけの貴重な休暇だ。
寮に残る者もいれば、実家に帰る者もいる。自分自身は今年は実家に帰ることにした。昨年も一昨年も自主練と言って帰っていないのだ。両親は「お婆ちゃんもいつどうなるか分からないから」と半ば脅迫のような言葉を投げかけてきて、そう言われてしまえば俺も帰らないわけにはいかない。実際はとても元気で自分のことは自分でやっている祖母だが、元気なうちにたくさん話をしたい気持ちはある。
そうと決まれば長らく会っていない小中学校の同級生にも会いたくなるもので、早速休み初日の今日の昼から夕方にかけて約束をこぎ着けた。
寮ではあまりガンガンに冷房をかけてはいけないので、部屋で少し体を動かせばじんわりと汗をかく。空調を効かせすぎると体調にも影響が出るのは分かっているのだが、こうもTシャツが肌に張り付くと、『節電!』と書かれた壁付けのエアコンのリモコンを恨めしく思ってしまうのは仕方がない。
ひと通り荷物を詰め終わったことだし親の迎えが着く前に一息つこうと食堂へ向かうと、既にチームメイトの天童と若利が麦茶の入ったグラスを傾けてカランカランと涼しげな音を響かせていた。

「よっ。お前らは居残り組か」
「ああ、そうだ」
「俺も。地元帰ってもすることないし」

ぐびっと喉を鳴らし静かに外を眺める若利に、ぷはーっと息を吐き居酒屋の親父に負けずとも劣らない天童。こいつらの所作はまるで正反対だけど、二人とも全然暑そうに見えないなと羨ましく思いながらグラスに氷を入れ、冷蔵庫の麦茶を注いでいく。パキリと氷が割れる音がして思わずごくりと喉が鳴ってしまった。

「そんなこと言っても親たちはお前らに会いたいんじゃねえの」
「俺は中途半端なことはするなと言われている」
「俺も別にやりたいことすればいいって言われてるし」

冷たい麦茶がからからになっていた喉の渇きを潤してゆく。外を見つめ続ける若利もテーブルに体重を預ける天童も、その目は前しか向いてなくて光が宿っている。まだ俺たちのバレー漬けの日々は終わっていないのだ。

「ふーん。そっか。俺はまあ久々にゆっくり過ごしてリフレッシュしてくるわ」

それだけ言って麦茶を飲み干せば、ちょうど親から「あと10分」と用件だけの簡素なメッセージが届いていた。立ち上がろうと椅子を引くと、テーブルに突っ伏していた天童が見計らったかのように体を起こし、こちらを探るように目を細めた。経験上、こいつのこの表情には嫌な予感しかしない。

「英太くんってさ、モテるのに浮いた話ひとつも聞かないけど、それって地元に初恋の相手置いてきてるから、とか?」
「ばっか……! そんなんじゃねえよ!」

先ほど麦茶のおかげで冷えた血液が、一気に沸騰して全身を駆け巡る。ついつい荒げてしまった声に後悔してももう遅い。驚いて少しだけ目を見開いた若利がこちらを見ているし、事の発端になった天童も冗談のつもりで言ったのだろう、ぎゅっと唇を引き結んで大きな瞬きを一回だけした。居た堪れない気持ちになった俺は大急ぎで立ち上がり「迎えが来たから」と吐き捨て、グラスを返却棚へ戻しに行く。背中に「後悔しないようにね」という言葉と「気をつけてな」という言葉を受けながら食堂を出た俺は、そんなんじゃない、そんなんじゃないんだと必死に自己暗示をかけていた。もう、とっくの昔に置いてきたはずの感情なのだと頭では分かっているのに、こうも反応してしまう自分自身が憎らしくて忌々しい。




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