惑溺のお手本・後

※R18の描写があります
自己責任でお読みください







「ねえ!あそこ!いるの!」

白布は、自分に対してすっかり警戒心を解いてしまっていると同じ視線になるまでゆっくりとした動作で腰を下ろすと、恐怖で引きつった顔を優しく撫でるように片手を頬に添えた。

「そんなに怖いんなら、気が紛れることしてあげましょうか。」
「え?」

の続きの言葉は、白布の欲をぶつけるような乱暴なキスによって彼の口の中へ消えた。驚いたはぎょっと目を大きく見開き、自分の置かれている状況が理解できず呆然と立ち尽くしていた。それをいいことに白布はの頰を挟み込むように顔を拘束して、柔らかいそこをこじ開けるように己の舌をねじ込んだ。
呆気にとられているの舌は、白布の思うがままに翻弄され、息苦しくなって初めてキスされていることに気づいたのだった。

「ん、ぅ……」

どんどんと白布の胸元を叩いてもビクともしない。それどころかその手を片手でいなされ、彼の手で後頭部を固定されてしまい逃げる術を失ってしまった。逃げても逃げても執拗に追い回されるの舌はその度に絡みとられ、息継ぎすら許してくれない。
酸素が足りないせいで頭がぼうっとしてくる。次第に力が抜けていけば、の舌は勝手に白布の舌に応えるように動いてしまい、頭がとろけそうになった。何も考えられなくなる。
そんなに満足した白布は深く口内を荒らしていたのを少しだけ浅くしてやると、だらしなく開いたの口からはどちらのものか分からない唾液がこぼれ落ちる。白布はわざと音を立てるようにそれを舐めとり顔を離せば、が頬を上気させとろんとした顔で呼吸を乱し、唇をてらてら光らせながら自分を見つめてくるので、たまらないと思った。
想像以上にエロい。乱れた着衣がこれまたいい。中途半端に閉じられたブラウスは、今から脱がそうと思っている白布にとっては好都合だ。残りのボタンを外しながら、露わになっている白い肩に舌を這わすとはびくりと震え、小さく声を漏らした。

「ん、っ…」

ずっと聞きたいと思っていた甘ったるい声が直接白布の鼓膜を震わすと、段々と下半身に熱が溜まっていく。深い口づけのあとはの体を触りたかった。肩から鎖骨に沿って舌を這わせながら、キャミソールの裾に手をかけ、直接背骨をなぞりあげるとは先ほどとは比較にならない程びくびくと反応したので、白布は嬉しくなり思わずほくそ笑んだ。
つぅーっと背骨をたどってプチンと邪魔な金具を取り払い、ふたつのふくらみの下のラインに指を這わせると、ぞくりとの全身が粟立つ。

「あ、……」

今まで支えられていたものがなくなり、心許なくなったは思わず声を上げたが、そんなことは白布の欲をそそるだけだった。もっと聞きたい。もっと触りたい。胸元に寄せていた唇を下の方にずらそうとしたときに、無抵抗だったの腕が白布の肩を押し返そうと突っ張ったので、イラっとして顔を上げを覗き込めばふるふると首を振りながら「だめ、やめて」と小さく震える声を絞り出していた。

「ねえ、さん。仏の顔も三度って言葉を知っていますか。」
「え?」
「好きな女にそんな格好で何度もくっつかれると我慢できる男はいないってことですよ。」

そうだ。好きな女は大事にしろ?誰がそんなこと言った?違うだろ。好きな女だからこそ我慢できないんだろ。俺も健全な男だったってことだ。簡単なことだ。
普段の生意気な後輩の顔とは違う妖艶な笑みに、これからされることを察知したは恐怖心を抱きつつも、体は電流が走ったかのように熱くなる。

「待って、ねえ、白布くん!わたしも…っ……」
「待たない。」
「……んっ!」

の反論を黙らせるかのように、白布はの咥内に指を突っ込んだ。何とかして黙らさなければ。そう思っての行動だったが、これはこれでいい。涙ぐみながら見上げるその姿は最高に興奮する。指での舌や頬壁をなぞるとくちゅくちゅと音を立て唾液を垂らしながら声を漏らしている。その間に柔らかな胸を堪能することにしよう。
白布はキャミソールと一緒に下着をずらし、露わになったふくらみを揉みしだきながら唇を寄せる。その唇の熱さには言いようのない切なさを感じ、無理矢理だというのに足のあいだに熱を持ってしまった自分を恥ずかしく思った。焦らすように肝心なところは避けて舌が這いずり回り、思わず腰が動く。咥内は相変わらず指で犯されていて、引き抜こうと彼の腕を掴んでもぎゅうぎゅうに押し込まれうまく力が入らない。舐めているつもりはないのに、結果的にそうなってしまっていることが何故かを興奮させた。
マゾヒストだと言うのだろうか。いや、違う。だって白布のことが好きだったのだ。さっき言おうと思ったのに遮られてしまったのだ。言ってしまえばこんなことにならなかったのだろうか。
余計なことを考えていることがバレたのか、ガタンと音を立てながらはロッカーに縫い付けられた。そして、白布はの足の間を膝でぐりと刺激すると同時に胸の先端を引っ掻いたのではびりりと電流が走ったかのように弓なりに体をそらせた。

「……ん、んぅ…ぅ…」

声を上げたくても彼の指がそうさせてくれない。胸元から顔を上げた白布は目の端に浮かぶの涙をぺろりと舌で掬いながら、そのままその唇を耳に寄せ耳たぶを挟み込みながら囁いた。そのいつもより低い声に鼓膜だけでなく全身が震え、じんわりと水っぽい何かが流れ出る気配がする。

「随分余裕じゃないですか。でも、まあそんな余裕もすぐなくなると思いますけどね。」

ずるりと咥内から引き抜いた指をショーツの上から割れ目をなぞるように滑らすと、蓋をするものがなくなったの口からは甲高い声が漏れ出した。

「やっ……あ、ん…」
「へえ。犯されてるっていうのにちゃんと濡れてるじゃないですか。」

自分の唾液で濡れた指で自分自身の中心を擦られるというだけでも恥ずかしいのに、唾液だけじゃないもので濡れた指を見せつけるように舐めとられると、はもう羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。それでももっと奥に入れて欲しくてじんじんとする。物欲しそうに見つめてくるをせせら笑いながら、白布はショーツの間をぬって長い中指を望み通りに奥まで突っ込みぐちゃぐちゃとかき混ぜてやると、は気持ちよさで顔を歪めながらひときわ甘い声で啼いた。

「あ、あ……っ……んんっ」
「いいですね、その顔。好きです。」

激しくなる白布の手つきに快感の波が襲う。その上そんな言葉を吐き、「あー、かわいい」と言ったものだから、はきゅうっと白布の指を締めつけ、駆け上がるような衝動を感じた。
そこにはもう少女のような彼女はいない。痴態を晒す女が必死に自分を求めて喘いでいる。そんなふうにしてしまったのは自分自身であるということが、白布の征服欲を満たしていく。中を引っ掻き回しながら胸の突起を舌で弄んでやると、の体がびくりと大きく跳ね上がり脱力したので、指を引き抜いてその辺に置かれていたベンチに寝かせてやった。ちょうどいい。白布自身も熱を放っていて、限界だと思っていたところだ。
白布はぐっしょり濡れたのショーツを無遠慮にずり下げ、ポケットに入っていたゴムの封を破り取りつけると、一気にのやわらかな肉の中へ分け入っていった。このタイミングで避妊具を「男のマナーだから」と言って手渡してきた気怠げな同輩にこっそり感謝することになるとは。
ぐずぐずに濡れそぼっていたそこは、すんなりと白布を受け入れ、あけすけな水音を更衣室中に響かせる。先ほどとは比較にならない熱と圧迫感には意識がどこかへ飛んでいきそうになったが、「はぁ……」となまめかしげに息を吐いた白布の表情がかろうじてをつなぎとめていた。
普段見せることのない彼の快感に歪んだ顔がの心をざわつかせ、全身に鳥肌をたたせた。こんな強引な行為を受け入れることができてしまうのも、白布のことが好きだからというのに、それを言葉にすることは許されない。緩やかに動かされていた腰が段々と深く獰猛に沈み込むようになれば、の口からはそのリズムに合わせて喘ぎ声が漏れるだけだ。それなのに「犯されてるっていうのに、いやらしい人」と言葉で責められ、不本意だと思うにも関わらず感じてしまうのだから、もうどうしようもない。
力なく白布の背中に手を回し縋り付くように息を吐くが白布はたまらなく愛おしかった。どうしてこんな自分を受け入れているのかという疑問は頭の片隅に残っているが、それすらどうでもよくなるくらいにをめちゃくちゃにしたい。自分にもこんな欲があったのかと驚きながら、全てぶつけるようにの体に舌を這わせながら腰を揺らし続ける。

「んっ……ん……あ、あ、」
「…やべ……イきそ……」

もう少しあたたかい彼女の中にいたかったが、ひときわ深く奥に打ちつけたときに熱をしぼりとられるように強い締めつけが襲ってきたので、赤く濡れた唇に痕を残すように噛みつきながら、すべての精を遠慮なくゴムの中に吐き出した。


ぐったりと横たわるの服を申し訳程度に整えながら白布は息を吐いた。どれくらい時間が経ってしまったのだろうか。すりガラス越しに見える空はすっかり濃紺色になってしまっていた。送ってやりたい気持ちもやまやまだが、すんなり送らせてもらえるかどうか。そもそも明日から口を聞いてもらえるかも怪しい。
未だ涙の跡が残るの頬を撫でると血色のいい赤い唇から余韻の残る艶やかな声が漏れて自身の下半身に熱が集まる。
無理矢理抱いて罪悪感を感じているというのにまだそんな気分になるなんて自分の欲が信じられなくて自嘲のような笑いが込み上げる。
もう、きっと、今までどおりになんて戻れない。それでもが自分に笑いかけてくれるなら。
「もうヤツのことは忘れましたか」なんて意地悪なことを言ってからかってやりたいし、彼女の頭の中を自分でいっぱいにしてしまいたい。甘い言葉なんて普段は囁かないし、そもそもそんなことが言えるタイプの人間じゃない。だからこそ、今日だけはとびっきりの愛を彼女に伝えたい。もう何も怖くないように。俺のことしか考えられなくなればいい。
そんな都合のいいことばっかり考えてしまうのだから、手に負えない化け物を飼いならすことと同義なのだ。恋をするということは。